
第29回 眼科専門医認定試験 臨床問題の解説を行います。
公式解答は発表されておりませんので間違い箇所がございましたらお問い合わせ欄もしくはTwitterのDMより指摘いただければ助かります。
問題については以下↓の眼科学会ホームページよりダウンロード出来ます。
目次
1問:毛様体の解剖
答えはa
組織は毛様体です。
外側(画像の下側)に色素のない細胞があり、その少し内側に濃く染まった細胞があるのが観察されます。
これはそれぞれ毛様体無色素細胞と、毛様体色素細胞です。
このように色素のついた細胞の外側に無色素の細胞がある組織は眼科では毛様体を考えます。
血液網膜関門は関係ありませんが、血液房水関門は、毛様体無色素細胞と血管内皮細胞によって形成されています。
視細胞外節の貪食は網膜色素上皮の機能で、角膜透明性の維持は内皮細胞です。
2問:色覚異常
答えはc
石原式の第1表はデモンストレーション用の指標で、基本的に色覚異常があっても読めるように作られています。
3問:隅角所見
答えはb, c
隅角所見あまり自信が無いので間違っていたら教えていただけると助かります!
a. 正常隅角かと思いましたが、正常より色素が多い印象です。
b. 薄いグレーの結節が観察されるので隅角結節です。
c. 虹彩前癒着(PAS)を認めます。
d. 異常なルベオーシスです。
e. 隅角の形成不全があり、虹彩高位付着付着も伴っています。特に隅角形成不全の中のwrap around typeを疑います。
4問:緑内障
答えはc
耳下側のdisc rim菲薄化があり、それに対応するNFLDを認めます。
上方のビエルム暗点や鼻側階段といった緑内障性視野変化が推定されます。
5問:OCT所見
答えはc, e
黄斑前膜は特になく、嚢胞様黄斑浮腫を認めます。
嚢胞様黄斑浮腫は網膜の外層と内層の間に水が溜まるのに対して、漿液性網膜剥離はRPE上に水が貯まります。
嚢胞様黄斑浮腫は網膜表面の血管傷害の起こるような、DMやRVOで引き起こされます。
ちなみにOCTマップの黄斑モードのサークル径は内側から順に1mm、3mm、6mmとなっています。

6問:梅毒
答えはb
梅毒は5類感染症です。
5類感染症の中には1週間以内に届出が必要なものと、定点把握といって、定点医療機関であれば届け出を行うものに分けられます。
性感染症系はだいたい5類で、梅毒やAIDSは1週間以内に届出が必要です。
性器クラミジア、性器ヘルペス、淋菌などは定点把握になります。
主に眼科が届出をする定点把握疾患は、流行性角結膜炎と急性出血性結膜炎です。
7問:先天性涙嚢ヘルニア
答えはe
生後すぐの赤ちゃんの涙囊部に青色腫瘤があり、MRIで涙囊部の腫大がありますので先天性涙囊ヘルニアです。
先天性涙囊ヘルニアは最近は先天涙囊瘤と呼ぶようになってきているようで、ガイドラインでも涙囊瘤という病名が使われています。
先天涙囊瘤では先天性鼻涙管閉塞に、総涙小管閉塞を合併する疾患です。
両者が閉塞することで、涙囊および鼻涙管に粘液や羊水が貯留することで大きく腫脹して、この症例のような腫瘤を形成します。
涙囊から鼻涙管への移行部は拡張しないので、くびれのようになり、ダンベル型の腫瘤を形成するのが特徴的です。
参考:https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/atresia_of_nasolacrimal_duct.pdf
8問:眼窩脂肪ヘルニア
答えはe
黄色の腫瘤であり、典型的な眼窩脂肪ヘルニアです。
治療は切除とヘルニア門閉鎖です。
9問:IgG4関連疾患
答えはc
両眼瞼腫脹があり、涙腺が腫れていることや血中IgG4高値なことからIgG4関連疾患を疑います。
眼科領域では外眼筋の腫大と眼球運動障害などを併発します。
ステロイドに対する反応性は良好で、この症例では涙腺腫大のみなので内服で加療で良いと思います。
10問:涙腺腫瘍
答えはd
左眼の眼球耳上側にモザイク状の腫瘤があり、眼球および上・外直筋を圧排しており、涙腺腫瘍を疑います。
片眼性であり多形腺腫や腺様嚢胞癌などが鑑別にあがりますが、腺様嚢胞癌では痛みを伴うのが特徴で、痛みが無いという病歴はそこを意識して聴取したと考えられます。
多形腺腫に対して生検を行なってしまうと癌化のおそれがあるので、疑わしい時は完全摘出が基本です。
他にも悪性リンパ腫やIgG4関連疾患なども鑑別ですが、悪性リンパ腫であればこのように眼球を圧排せずにmoldingといって組織の隙間を埋めるように増殖しますし、IgG4であればもう片眼の涙腺も多少腫れているはずかな?と思います。あとはMRI所見でもモザイク状は非典型です。
11問:結膜腫瘍
答えはa
前眼部写真では、内部に血管の芯のような赤い点々を伴った赤色隆起性の腫瘍病変を認めます。
典型的なカリフラワー状では無いものの、このように血管の芯を伴う腫瘍は結膜乳頭腫の可能性が高いです。しかし扁平上皮癌にもこのような所見を呈するタイプもあるので肉眼所見だけでは診断できません。
実際の臨床では、点眼麻酔で腫瘍を持ち上げてみて有茎性であれば乳頭腫の可能性が高まります。
病理画像では、核異型や極性の乱れなどはあまりわからないのですが、増殖して配列した細胞の中にfibrovascular coreを認めますので乳頭腫で良いかと思います。
12問:緑内障点眼
答えはe
左眼の上眼瞼溝深化(DUES)が明らかですので、プロスタグランジン関連薬を疑います。
13問:マーカスガン現象
答えはe
通常時は片眼の眼瞼下垂があり、口を開けると下垂眼が開いています。
これは眼瞼挙筋と外側翼突筋の異常連合が原因の、マーカスガン現象と呼びます。
眼瞼下垂時でも瞳孔領が出ていますし、口を動かすと眼瞼が上がるので形態覚遮断弱視のリスクは低いです。
14問:皮様脂肪腫
答えはd
皮様脂肪腫というのは皮様嚢腫の一種です。
Aの画像では円蓋部に腫瘍のような病変を認めます。リンパ腫のようなサーモンピンクではなさそうですし、脂肪ヘルニアのような黄色でもありません。
Bの画像では表面は重層扁平上皮となっており、明らかな悪性細胞のようなものは認めず基底膜も保たれています。真ん中のところはおそらく毛包だと思います。
Cの画像では脂肪組織を認めます。
以上の特徴から皮様脂肪腫を疑います。
15問:ペルーシド角膜変性
答えはb
角膜下方が突出していることや、典型的な角膜形状解析結果からペルーシド角膜変性を疑います。
カラーコードマップでは角膜中央に縦の低屈折(青色)の部位があり、その周りを下から囲むように高屈折(赤色)の部位が存在しており、crab claw appearanceと名前がついています。
カラーコードマップを見てわかるように、カニの爪のような高屈折があるために水平方向が強主経線となっており倒乱視といえますのでbが答えです。
円錐角膜と鑑別が必要ですが、違いとしては円錐角膜では中央部の突出と菲薄化を起こすのに対して、ペルーシド角膜変性では下方に起こします。
また、円錐角膜が思春期発症に対して、発症年齢がやや遅めなことが鑑別点となります。
16問:うずまき状角膜混濁
答えはb
スリットではうずまき状の角膜混濁を認めており、フルオレセイン染色では特に異常を認めていません。
これは画像所見より典型的なアミオダロン角膜症です。
専門医試験的にうずまき状角膜混濁と言われれば、先天疾患だとFabry病、後天性だとアミオダロンを考えます。
17問:円錐水晶体
答えはc
スリット写真では水晶体後面が急峻となっていることから後部円錐水晶体を疑います。
角膜屈折力マップでは通常の直乱視を認めるものの不正乱視はありません。
全眼球の高次収差マップを見ると中央部が不自然に青色になっていてその周りは赤くなっています。つまり真ん中は近視で、その周辺は遠視の状態となっており、高次収差が大きい状態です。
上記所見を合わせて考えると角膜に異常はないけれど、後部円錐水晶体のせいでそこに対応するところだけ近視化しており、眼球の高次収差の増加により視力不良が起こっていると考えられます。
18問:スタルガルト病
答えはa
眼底写真では黄斑部の萎縮、およびその周囲に黄色の点状病変を認めます。
眼底造影では点状病変や黄斑部の過蛍光を認めます。
OCTでは網膜外層萎縮を認めます。
小児の両眼性視力障害を呈しており、黄斑萎縮や黄色点状病変からスタルガルト病を最も考えます。
この点状病変はfleckと呼ばれます。
ちなみに眼底造影ではダークコロイドも特徴的な所見ですが全例に認めるわけでなく、この症例でも無いように思います。
a. 常染色体劣性遺伝ですが保因者の眼底は正常です。保因者の眼底異常を呈するのはコロイデレミアや眼白子症が挙げられます。
b. ABCA4遺伝子異常を認めます。
c. 黄斑部を中心に障害されますので周辺視野はほぼ正常です。
d. これは微妙ですが、基本的に黄斑部のみが障害されるような症例ではほぼ正常です。全視野ERGで異常をきたすものもあり、そういった症例は進行が早かったり予後が悪かったりします。
e. 進行性の疾患ですのでその通りです。
スタルガルト病についてのまとめ記事も参考にしていただければと思います。
https://guchopoi.com/stargardt/
19問:先天停在性夜盲
答えはd
眼底写真、OCT所見ともに特に異常を認めません。
全視野ERGでは杆体・錐体応答ともに低下しており、フラッシュは陰性型となっています。
小児の軽度視力低下があり、網膜に構造的異常が無いにも関わらず杆体・錐体応答がどちらも落ちているような場合は先天停在性夜盲の不全型を疑います。
ERGを撮らないと診断できないので、小児の弱視の鑑別疾患として考えら必要があり、しばしば見逃されています。
a. 網膜分離でも陰性型フラッシュERGとなりますが眼底写真もOCTも正常です。
b. 杆体応答がERGで落ちているので違います。
c. 完全型は杆体細胞のみの障害ですので視力低下を伴いませんし、強度近視のことが多いです。
d. こちらが答えです。
e. 杆体応答がERGで落ちているので違います。
先天停在性夜盲はややこしいので、自信が無い先生はこちらの記事も参照ください。
https://guchopoi.com/csnb/
20問:網膜芽細胞腫
答えはa, d
眼底には白色腫瘍性病変が散在しており、太くなった栄養血管を認めます。
エコーでは下方に高信号があり、石灰化を疑います。
幼児の白色腫瘍病変で石灰化を伴うので、網膜芽細胞腫を疑います。
診断のためにはCTで石灰化を確認します。また、診断した場合には遺伝子検査も行います。癌抑制遺伝子であるRb遺伝子変異を伴うことがあります。
治療としては抗がん剤による保存的加療や、場合によっては眼球摘出が適応となることもあります。
抗がん剤で腫瘍が縮小してから網膜冷凍凝固を行うこともありますが、いきなりは行いません。