目次
サルコイドーシスについて
サルコイドーシスは非乾酪性肉芽種病変を特徴とする自己免疫性疾患で、眼だけでなく肺、心臓、皮膚、神経など様々な全身病変を伴います。
眼科的にはサルコイドーシスはぶどう膜炎の最も多い原因で、肉芽種性ぶどう膜炎を呈し、ほとんどが両眼性です。
眼サルコイドーシスの所見
前眼部所見
肉芽種性ぶどう膜炎なので比較的大きい角膜後面沈着物(KP)を認め、豚脂様と言われます。
また、虹彩後癒着を伴いやすく全周に渡って癒着が起こるとiris bombeとなりますので瞳孔管理が必要です。
サルコイドーシスは肉芽種を様々な所に作り、前眼部では瞳孔縁(Koeppe結節)や虹彩表面(Busacca結節)などや、隅角にも半透明灰白色の隅角結節という肉芽腫を認めることがあります。
特に隅角結節はステロイド治療が開始されるとすぐに消退するので未治療の段階でしっかり隅角を観察しておく必要があります。
また隅角に関しては虹彩前癒着(PAS)を形成しやすく、特に下方隅角に広範囲にわたって台形状PASを認めることもあります。PASが広範囲に渡ると眼圧上昇の原因にもなります。
KPと同じく隅角所見も下方に認めやすく、重力の影響があるのだと思います。
後眼部所見
硝子体中に雪玉状混濁と呼ばれる白い塊状の混濁を認めることがあり、それらが繋がったstring of pearlsと呼ばれるような所見もあります。前術のように重力の影響で下方に見られることが多いです。
眼底では肉芽種性の網膜血管周囲炎が、分節状、結節状に血管に沿ってみられます。
基本的には静脈周囲の炎症がメインです(自己免疫性のぶどう膜炎ではいずれも静脈病変が中心なことが多い)。
また、蝋様網脈絡膜滲出斑と呼ばれる蝋を垂らしたような白い滲出斑が特徴的で、発症から時間が経つと、それらが萎縮してレーザー瘢痕様の網脈絡膜萎縮病巣と呼ばれるPC瘢痕のような病変になると言われています。
これらの所見も下方に多いです。
その他としては脈絡膜や視神経乳頭に肉芽種を形成することがあり、非常にサルコイドーシスに特異度が高いですが頻度は1%程度と低いです。
またサルコイドーシスでは視神経炎を引き起こすこともあります。
ステロイドに反応して良くなる視神経炎のうちで、ステロイドをやめると増悪するといった症例の場合、アクアポリン4抗体陽性のもののような再発性のものを考えると思いますが、それだけでなくサルコイドーシスや真菌、IgG4関連疾患なども鑑別に入れる必要があります。
眼サルコイドーシスの診断基準
眼サルコイドーシスは下記の6項目のうち2つ以上認めた場合に強く疑うと言われています。
- 肉芽腫性前部ブドウ膜炎(豚脂様角膜後面沈着物または虹彩結節)
- 隅角結節またはテント状虹彩前癒着
- 塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状)
- 網膜血管周囲炎(主に静脈)および血管周囲結節
- 多発する蝋様網脈絡膜滲出斑または光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣
- 視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫
眼サルコイドーシスの治療
前眼部病変に対してはステロイド点眼や結膜下注射、散瞳薬による瞳孔管理を行います。
後眼部病変に対してはステロイドの経Tenon嚢下注射を行います。
重症例ではステロイドの内服治療も必要となり、0.5mg/kg/day〜1.0mg/kg/dayから開始します。
初期投与量を2週間〜1ヶ月継続し、1〜2ヶ月ごとに5〜10mgずつ減量していきます。
投与量が少なくなれば症例に応じて減量速度をゆっくりにします(15mg/dayなら2.5mgずつ減量、5mgからは1mgずつ減量など)。
以下にステロイド全身投与を考慮する所見を記載します。
- 局所投与に抵抗する重篤な前眼部炎症
重症の虹彩毛様体炎、隅角または虹彩結節が大きく多数、あるいは虹彩上に新生血管を伴う場合 - 高度の硝子体混濁
- 広範な網脈絡膜炎および網膜血管炎
- 網膜無血管領域を伴わない網膜あるいは視神経乳頭新生血管
- 黄斑浮腫
- 視神経乳頭の浮腫、肉芽腫
- 脈絡膜肉芽腫
サルコイドーシスの診断基準
組織診断群:
非乾酪性肉芽腫(類上皮細胞肉芽腫)が陽性であり、その他の病気を除外できている
臨床診断群:
非乾酪性肉芽腫は照明されていないが、呼吸器・眼・心臓のうち2つ以上で本性を強く示す臨床所見を認め、かつ特徴的検査所見の5項目中2項目以上が陽性
特徴的検査所見
- 両側肺門リンパ節腫脹
- ACE or リゾチーム高値
- sIL-2R高値
- Gaシンチ、FDG-PETで+
- 気管支肺胞洗浄(BAL)でリンパ球比率上昇(CD4/CD8>3.5)
上記のように臨床診断のためには呼吸器、眼、心臓のうち2つの臓器でサルコイドーシスを疑う所見がそろっていて、かつ上記5項目のうち2つが当てはまれば診断となります。
眼科ではじめに眼サルコイドーシスを疑って呼吸器内科や循環器内科に紹介し、異常無しと言われてから数年たって他の所見が揃って診断に至ることがあるので全身症状の出現にも注意してフォローが必要です。
また特徴的検査所見の項目にACEやリゾチーム、sIL2Rの高値がありますが、検査感度特異度の記事でお話したように異常値(電カルで色が変わっている)イコールサルコイドーシスの診断ではありませんのであくまで参考所見の一つとして考えるというのを忘れないようにしてください。
特にsIL2Rは全身の炎症疾患があれば割となんでも上昇することがあります。
医師国家試験では悪性リンパ腫で上がると覚えたと思いますが、悪性リンパ腫の場合はサルコイドーシスの時よりもはるかに高値となる傾向にあります(具体的には5000以上くらい)。
サルコイドーシスには様々な亜型があったり多彩な症状を起こす疾患で、時に診断が非常に難しいです。
確実な診断のためには組織診断が重要で、生検が出来そうな所見(顔のサルコイド結節など)があれば比較的簡単に生検できるので診断的価値があります。
眼以外のサルコイドーシスの所見
肺病変
両側肺門部リンパ節腫脹(BHL)は非常に有名なX線所見です。しかしサルコイドーシスと診断された患者でも1/4ではBHLを認めなかったとの報告もあります。
BHLがなくても胸部CTで気管支血管束に沿った粒状影、気管支血管束の不規則な肥厚があればサルコイドーシスに特徴的と言えますので、あやしい症例では呼吸器内科紹介やCT精査は必要だと思います。
また、肺病変がCTで全くない眼所見だけのサルコイドーシスであったとしても気管支肺胞洗浄液(BALF)では85%程度の症例でリンパ球増多を認めたとの報告もあります(眼所見だけで気管支鏡までやるかはさておき)。
心臓病変
重症心不全や致死性不整脈へと進展して突然死を来すことがあるので慎重な対応が必要です。サルコイドーシス患者の死因の半数近くは心臓病変です。
様々な臨床症状を呈しますが、心室中隔基部に生じた肉芽種病変による房室ブロックや限局性の菲薄化は特徴的な所見です。
眼所見で怪しければ心エコーや心電図含めて専門医紹介をしておく方がよいです。
怪しければHolterやガリウムシンチや心臓MRIまで調べます。
特に中年以降の女性で注意です。
皮膚病変
皮膚は肺、眼に次いで発症頻度が高い臓器です。
皮膚病変は以下の2つに分けられます。
- 皮膚サルコイド(d)
- 瘢痕浸潤
①の好発部位は鼻周囲と前額部の生え際。
②の好発部位は膝蓋部と肘頭部です。
上記の好発部位くらいは眼科医でも見てみると良いと思っています。
また眼、鼻、口周囲の青紫〜赤色の斑状丘疹(b)や、下腿伸側の結節性紅斑(a)もサルコイドーシスでみられます。
神経病変
5〜13%程度に合併します。
中枢神経では髄膜炎や肥厚性硬膜炎が多く髄膜刺激症状を認めることもあります。
また稀ですが下垂体病変による尿崩症を起こすこともあります。
脳神経としては顔面神経麻痺が最も多いです。それ以外ではsmall fiber neuropathyを来すこともあり痛みや知覚過敏などを生じます。
リンパ節病変
表在リンパ節の腫脹をサルコイドーシスの15%程度に認めます。
多発性のリンパ節腫脹を認めるにもかかわらずリンパ腫のB症状(発熱、体重減少、寝汗)を伴わない場合にはサルコイドーシスを疑います。
運動器病変
筋肉の病変としては筋肉の走行に沿った索状の腫瘤を筋肉内に触れる筋腫瘤型と、筋力低下を来すミオパチー型があります。
内分泌系病変
内分泌系はサルコイドーシスではおかされにくいと言われていますが、前述の下垂体病変に伴う尿崩症や、それ以外では橋本病の合併が報告されています。
副甲状腺や副腎病変などの報告はほとんどありません。
腎臓病変
サルコイドーシスでは高カルシウム血症となることがあり、糸球体や尿細管の障害や腎石灰沈着、尿路結石などが起こると言われています。
消化器病変
肝臓や消化器の病変は稀です。
肝腫大や脾腫は画像診断で発見されることがありますが、自覚症状や肝機能異常を示すことは少ないです。
しかし、肝生検を行うと高率にサルコイドーシスに特徴的な組織診断が得られるとの報告もあり、肝臓にも影響は出てそうです
Heerfordt症候群について
サルコイドーシス亜型である稀な症候群で、サルコイドーシス全体の1〜5%程度にみられます。
以下の4症状を満たすものをHeerfordt症候群と呼びます。
1〜4全て満たすものを完全型、1〜3のうち2つと④を満たすものを不全型と呼びます。
- ぶどう膜炎:
サルコイドーシスのぶどう膜炎と同じです。 - 耳下腺腫脹:
サルコイドーシスの6%程度に認め、多くは両側性です。 - 顔面神経麻痺:
サルコイドーシスで起こる脳神経麻痺で最も多いのが顔面神経麻痺で両側にみられることもあります。 - 発熱:
ほとんどが37度程度の微熱で高熱になることは稀です。
本疾患は基本的にサルコイドーシスの亜型の一つですので治療はサルコイドーシスに準じます。
顔面神経麻痺を抑えるために経口でのステロイドを使用することが多いです。
Blau症候群
Blau症候群は通常のサルコイドーシスとは別の疾患ですが、よく似た症状をきたします。
乳幼児に発症する常優遺伝の疾患で、非乾酪性類上皮細胞肉芽種からなる以下の3つの症状を主徴とする遺伝性自己免疫性疾患です。
- 皮膚炎
- 関節炎
- ぶどう膜炎
3つの症状はほぼ必発で、①から③の順番に症状が出現します。
4歳頃までに皮疹で発症します。
通常のサルコイドーシスではあまり見られない関節所見が前面に出ること、BHLなどの典型的な胸部所見が無いので、小児のぶどう膜炎としてはJIAなどが鑑別となります。
JIAと違ってBlau症候群では汎ぶどう膜炎となります。
まとめ
以上サルコイドーシスについてまとめてみましたが、特徴的な臨床像から簡単に診断がつくこともありますが、同じサルコイドーシスとは思えないくらい多彩な臨床像を認めることもあります。
肉芽種性ぶどう膜炎を呈しており、よくわからない全身症状があった際には必ずサルコイドーシスを鑑別に入れるべきで、生検出来る皮膚病変を探す癖をつけるのが診断に近づく一歩だと思います。
参考書籍
呼吸器科医のためのサルコイドーシス診療ガイド
呼吸器科医のためのと書いてありますが、サルコイドーシスの全身症状について非常によくまとまっているのでサルコイドーシスを見る機会のある先生は1冊持っておいて損はしないと思います。
この記事も上記書籍を参考にしており、眼所見についても詳しく記載されています。