目次
はじめに
診断学についての基礎の記事をまだ読んでいない方は、まずはこちらを先にお読みください。こちらでは検査前確率と検査後確率の大切さについて解説しています。
検査前確率について
検査前確率というのは自分の知識と臨床経験、頻度などからある疾患の頻度をざっくり見積もったもので、例えばざっくり30%くらいの確率でサルコイドーシスはあり得るなという様なものです。
検査前確率を見積もる能力を鍛えるためにはひたすら経験を積んで、自分の見立てが間違っていた場合には適宜修正していく必要があります。
何も考えずに日々炎症、ステロイドという風に処方していると、診断力の成長はありません。
そして検査前確率から検査後確率への変化については検査によって非常に異なりますので、今日は検査特性についてがメインになります。
そもそも検査が陽性、陰性とわかれば即診断!というわけではなく、その結果により元々想定していた確率から変化するだけで診断はつかないということを覚えておいてください。
例えば検査前確率が50%とある疾患を想定していた際に、ある検査では陽性になると検査後確率は60%になる。またある検査は90%になるという風に検査によって変動率は違うのです。
それでは何故検査によってこのような違いが起こるのでしょうか?
この違いは検査の感度と特異度によって生じます。
感度と特異度
- 感度:その疾患を持っている人の中で、検査結果で異常が出る人の確率。
- 特異度:その疾患を持っていない人の中で、検査結果が陰性と出る人の確率。
わかりにくいと思うのでSLEに対する抗核抗体検査を例に出してみます。
この検査は感度99%、特異度80%です。
つまりSLEを持っている人に検査すると99%の人が陽性になり、SLEを持たない人に検査すると80%が陰性となります。
この検査について検査前確率と検査後確率を考えてみると、検査前が40%程度と考えていた場合に、陽性であった場合にはSLEの検査後確率は60%程度、陰性であった場合にはSLEの確率はほぼ0%に近づきます。
何故かというと、SLEを持つ人で抗核抗体陰性の人は1%しかいないのに対して、抗核抗体陽性なのにSLEを持たないひとは20%もいるからです。
正直細かい%はどうでもいいです。
今回の例からは感度の高い検査は、陰性だった時に除外するのには役にたつけれど陽性だったとしても検査後確率は上がりにくいということがわかります。
逆に感度が低くても特異度が高いような検査では陰性だった時は検査後確率はあまり変わりませんが、陽性だった場合にぐっと診断に近づきます。
この覚え方としてSpPin, SnNoutというものがあります。
- Specificity Positive rule in
特異度が高い検査が陽性なら確定診断に優れる - Sensitivity Negative rule out
感度が高い検査が陰性なら除外診断に優れる
まずは全ての検査を見る時に自分が見ている検査は感度が高いのか特異度が高いのかということを常に考えるクセをつけましょう。
ぶどう膜炎セット採血などで微妙にリウマチ因子や可溶性インターロイキン2レセプターが上がっている事がありますが、感度と特異度を考えるとあまり役に立たないことがわかります。
(IL-2はサルコイドーシスの診断に多少役立ちますが決め手にはなりません)
もちろん検査というのは意味が無いわけではなく、例えば可溶性IL-2レセプターは正常範囲から3000くらいまでの上昇なら全身の炎症疾患ではどんな疾患でも認めることがありますが、5000〜10000のような高値になるのは悪性リンパ腫以外では考えにくい、という風にどのラインで線引きをするかによっても多少異なりますので、検査解釈は奥が深いですのでいったんこれくらいにしておきます。
検査前確率と感度・特異度のまとめ
検査が陽性の時は特異度を見て、検査が陰性の時は感度をみます。
特異度が高い検査が陽性だった場合には検査前確率から検査後確率は大きく上昇します。
特異度が低い検査が陽性なら検査前確率から検査後確率への上昇は小さいです。
感度が高い検査が陰性だった場合に検査後確率は大きく下がります。
感度が低い検査が陰性だったとしても検査後確率はあまり下がりません。
最後に
最後に覚えておいていただきたいことは、検査は全て検査前確率ありきだということです。
例えば感度の高い検査が陰性だったとしても、検査前確率が限りなく100%に近い場合にはあまり意味はありません。
先ほどのSLEの例でも100人に1人は抗核抗体陰性なのです。100人は多いようですが専門医なら100人程度みる機会は多々あります。
逆に事前に全く疑わしくないにもかかわらず、何らかの検査が陽性だったからとそれにひっぱられても診断には近づきません。
よくわからないCRP上昇と発熱でリウマチ因子と抗核抗体を測って陽性だから膠原病!と思っていたら感染性心内膜炎だったみたいなことが普通に起こります。
多くの施設ではぶどう膜炎や視神経炎などは採血セットが組まれており、よくわからず若手の先生がオーダーを出して、何かがひっかかればそれを狙って治療。という風になっています。
もちろんそれが悪いわけでは無く、鑑別疾患を網羅できるように厳選された検査セットが組まれているはずです。
はじめの頃は検査漏れが起こったり検査前確率を正しく見積もるのが難しかったりすると思いますし、網羅的検査に救われることもあります。
しかし、少し経験が増えたり余裕が出た際に、一度自分の施設の検査セットを確認してみて、それぞれの検査はどの疾患を想定してオーダーされているのか、その検査の感度と特異度はどの程度あるのかということを考慮すると、ややこしい疾患の診断スキルが劇的に上昇するはずです。