当記事での角膜ジストロフィの分類はIC3D edition2 (2015年)に基づいています。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25564336/
目次
上皮および上皮下が主体
Meesmann角膜上皮ジストロフィ
原因遺伝子:K3, K12
遺伝形式:常染色体優性
両眼性に角膜上皮内に微小空砲を多数形成する角膜変性疾患で、難治性SPKを生じます。
ムコ多糖が沈着するためPAS染色陽性となります。
治療はSPKに対する対症療法です。
上皮基底膜ジストロフィ
遺伝形式:常染色体優性だが孤発例もあり
角膜上皮びらんを繰り返す疾患で、map-dot fingerprint dystrophyやCogan’s microcystic dystrophyとも呼ばれます。
角膜上皮に地図状(map)、点状(dot)、指紋状(fingerprint)の所見や上皮内に小嚢胞を認めます。
治療は上皮びらんに対して眼軟膏や治療用コンタクトレンズを用います。
膠様滴状角膜ジストロフィ
原因遺伝子:TACSTD2 (M1S1)
遺伝形式:常染色体劣性
両眼性に幼少時から羞明や異物感を自覚し、角膜上皮下に乳白色のびまん性混濁を認めます。
病理所見ではコンゴレッド染色陽性のアミロイドの沈着及び沈着部位での上皮菲薄化を認めます。
進行すると膠様と呼ばれる、境界やや不鮮明な隆起性混濁が瞼裂部を中心に角膜全体にみられます。
混濁は融合傾向があり、血管侵入や角膜上皮の透過性亢進が特徴的な所見です。
治療としては治療用ソフトコンタクトレンズがアミロイド沈着に抑制的に働くため用いられます。
角膜の凹凸不整によりSCLが装用出来ないようになった際には隆起物を機械的に掻爬するか、PTKを行います。
Bowman層が主体
Reis-Bücklers角膜ジストロフィ
原因遺伝子:TGFBI
遺伝形式:常染色体優性
Bowman層及び実質表層にヒアリン様物質が沈着する疾患で、輪状角膜ジストロフィとも呼ばれます
網状・地図状の灰白色混濁病変がみられ、中央部で特に混濁が強いですが周辺部にいくにつれて弱くなり、透明帯を伴います。
再発性角膜びらんの原因にもなり、症状としては眼痛や羞明をきたします。
治療は電気分解やPTK(治療的角膜切除)を行います。
Thiel-Behnke角膜ジストロフィ
原因遺伝子:TGFBI
遺伝形式:常染色体優性
Reis-Bücklers角膜ジストロフィと同一の疾患と考えられていましたが、電子顕微鏡所見の違いから区別されるようになりました。Reis-Bücklers角膜ジストロフィと同じような疾患と覚えておけば専門医試験には対応できると思います。
顆粒状角膜ジストロフィ
原因遺伝子:TGFBI
遺伝形式:常染色体優性
ヘテロタイプでは実質表層に金平糖状の混濁がみられます。これらは加齢とともに増加・増大しますが進行は緩徐です。
ホモタイプではスズメバチの巣状の混濁がみられ、発症年齢が低くかつ混濁も強く、進行も速いです。
リン脂質であるヒアリンの沈着が特徴的です。
治療はPTK(治療的角膜切除)やLKP(表層角膜移植)を行いますが、深層混濁がある例ではDALK(深層角膜移植)を行います。
Avellino角膜ジストロフィ
原因遺伝子:TGFBI
遺伝形式:常染色体優性
顆粒状角膜ジストロフィと格子状角膜ジストロフィの両方の角膜所見を併せ持っており、顆粒状角膜ジストロフィのⅡ型とも呼ばれます。
実質浅層に境界明瞭な混濁が散在し、実質中層に棍棒状の混濁を認めます。
ヒアリンだけでなくアミロイドの沈着も認めます。
混濁は加齢とともに増加し、
治療はPTK(治療的角膜切除)やLKP(表層角膜移植)を行いますが、深層混濁がある例ではDALK(深層角膜移植)を行います。
格子状角膜ジストロフィ
原因遺伝子:TGFBI(Ⅰ型, Ⅲ型, ⅢA型, Ⅳ型)、Gelsolin(Ⅱ型)
遺伝形式:常染色体優性
実質浅層の中央部に針状の混濁を認め、アミロイドの沈着が特徴です。
再発性角膜びらんの原因となります。
Ⅰ型:最も多く、混濁は針状
Ⅱ型:家族性アミロイドーシスの眼所見
Ⅲ型:混濁は太く、枝分かれがみられる
Ⅳ型:角膜中央の中層から深層にみられる白色塊状混濁が特徴
治療は再発性角膜びらんに対しては治療用コンタクトレンズや眼軟膏を使用します。
角膜混濁に対しては、中央の混濁が強いためPTK(治療的角膜切除)の適応となる症例は少なく、LKP(表層角膜移植)やDALK(深層角膜移植)を行います。
実質が主体
斑状角膜ジストロフィ
原因遺伝子:CHST6
遺伝形式:常染色体劣性
ケラタン硫酸の代謝異常が原因で、ムコ多糖のグリコサミノグリカンが沈着します。
病理所見ではPAS染色陽性だけでなく、アルシアンブルー染色やコロイド鉄染色でも沈着物が染色されます。
角膜実質全層の多発性斑状混濁が特徴で、進行とともに深層、内皮側へ増加します。
治療としてはDALK(深層角膜移植)を行いますが他の実質型の角膜ジストロフィと比べると成績が悪く、内皮側変化の強い例ではPKP(全層角膜移植)も適応となります。
Schnyder角膜ジストロフィ
原因遺伝子:UBIAD1
遺伝形式:常染色体優性
角膜実質浅層にコレステロールが沈着する疾患で、瞳孔領に円盤状〜輪状の細かい針状結晶の混濁が特徴です。
混濁以外の角膜実質の透明性は保たれており、若年環が見られます。
角膜混濁の割に視力は保たれることが多く、羞明が主要な症状です。
病理所見ではoil-red染色で脂肪滴が赤く染色されます。
治療はDALK(深層角膜移植)かPKP(全層角膜移植)を行います。
内皮およびDescemet膜が主体
Fuchs角膜内皮ジストロフィ
遺伝形式:常染色体優性
後部多形性角膜ジストロフィ
遺伝形式:常染色体優性
先天性遺伝性角膜ジストロフィ
遺伝形式:常染色体優性, 劣性どちらもあり
劣性遺伝では出生時から角膜浮腫による混濁が強く、眼球振盪なども認めます。
優性遺伝では出生時は角膜透明で、成長とともに角膜浮腫がみられます。血管侵入などは伴いません。
覚えておくべきこと
常染色体劣性遺伝のもの
- 斑状角膜ジストロフィ
- 膠様滴状角膜ジストロフィ
再発性角膜びらんの原因となるもの
- 上皮基底膜ジストロフィ
- 格子状角膜ジストロフィ
- Reis-Bücklers角膜ジストロフィ
- Thiel-Behnke角膜ジストロフィ
ムコ多糖が沈着するもの
ムコ多糖が沈着する疾患ではPAS染色で陽性となります。
- Meesmann角膜上皮ジストロフィ
- 斑状角膜ジストロフィ
ヒアリンが沈着するもの
ヒアリンが沈着する疾患ではMasson-trichrome染色で陽性となります。
- 顆粒状角膜ジストロフィ
- Avellino角膜ジストロフィ
- Reis-Bücklers角膜ジストロフィ
- Thiel-Behnke角膜ジストロフィ
アミロイドが沈着するもの
アミロイドが沈着する疾患ではCongo-red染色で陽性となります。
- 膠様滴状角膜ジストロフィ
- 格子状角膜ジストロフィ
- Avellino角膜ジストロフィ