多局所ERGの読み方
目次
多局所ERGとは
多局所ERGは、後極部の多数の部位の局所ERGを一度に記録する検査です。 全視野ERGは網膜全体の反応をみるので、黄斑部だけに異常がある疾患では正常となります。 黄斑部局所の異常を発見するのに多局所ERGが有用です。
全視野ERGについてはERGの読み方の記事も参照ください。
多局所ERGは何を記録しているか
患者さんには、直径40〜50°の範囲に61個か103個の六角形が並んだ画面を見てもらいます。 六角形はそれぞれ決まった順番で明暗を切り替え、1回の記録からコンピュータで各部位の反応を取り出します。 網膜の感度は周辺ほど落ちるので、それに対応するように六角形は周辺ほど大きくなるように設計されています。そうすることで正常眼ではどこでも反応がほぼ同じ大きさになります。
明順応下で記録するので、主に錐体機能をみています。 信号の多くは、錐体からの信号を受け取る錐体双極細胞から出ています。 なので小口病のような杆体だけの疾患では、多局所ERGは正常です。 網膜神経節細胞はほとんど影響しないので、視神経疾患や緑内障でも低下しません。
波形:N1とP1
各部位の波形は、小さな陰性波(N1)、陽性波(P1)、2つ目の陰性波(N2)からなります。 N1の谷からP1の頂点までをP1振幅、刺激からP1の頂点までをP1頂点潜時として測ります。 全視野ERGのa波・b波とは別物です。

正常の多局所ERGを、中心からの距離ごと(リングごと)に平均したもので、上が中心、下が周辺です。
読み方の順番
多局所ERGは次の3つの順番で読みます。
- 全波形表示(trace array)で、記録の質とアーチファクトを確認する
- 波形が小さい場所をみつける
- その場所をOCT・視野と照らし合わせる
①まず全波形表示(trace array)をみる
全波形表示は、それぞれの六角形で記録した波形を、その六角形の位置に並べたものです。 3Dプロットより先に、必ずこちらをみます。
3Dプロットは、六角形ごとの「面積あたりの反応(反応密度)」を高さで表したものです。 中心の六角形はいちばん小さくなっています。 面積が半分の六角形では、同じノイズでも高さが2倍になります。 そのため、本当の反応がなくても中心に山ができることがあります。
下の図は、モニターを消したまま記録したものです。 全波形表示には波形がありません。 それでも3Dプロットには中心に山があります。 3Dプロットだけをみると正常の記録のように見えてしまうので、3Dプロットだけで判断しないように注意が必要です。

次に、記録そのものを確認します。 病気のように見えるアーチファクトが3つあります。 下の4つの図は同じ健常眼の記録なので、それぞれを正常の記録と比べてみます。
正常

これを基準にします。 左が全波形表示、右が3Dプロットです。 波形はどこもほぼ同じ大きさで、3Dプロットには中心に山が1つあります。
偏心固視

この図は、中心ではなく青い×を見てもらって記録したものです。 中心から外れた点を見ていると、見ている場所の波形がいちばん大きくなり、中心の波形は小さくなります。 3Dプロットの山も中心からずれます。
固視不良

この図は、青い点線に沿って視線を動かしてもらって記録したものです。 このように眼が左右に動くと、中心の波形が小さくなり、その両側の波形が大きくなります。 3Dプロットの中心の山は低くなります。
検査枠の縁

検査枠の縁が画面の一部を隠すと、周辺に偽の欠損ができます。 この図では上の列の波形が小さくなっています。
②波形が小さい場所をみつける
記録に問題がなければ、多局所ERGの読み方は、難しいことは考えず、波形が小さくなっていればそこに異常がある!とだけわかっていれば良いと思います。 小さい波形がどこにあるか、どのくらいの広さか、どのくらい小さいかをみます。
低下の形から疾患を考えます。 下の図はどれも網膜配列(retinal view=眼底写真と同じ向き)の全波形表示なので、それぞれを正常の記録と比べてみます。
正常

これを基準にします。 波形はどこもほぼ同じ大きさです。
中心が小さい

中心の波形が小さく、周辺の波形は正常です。 黄斑ジストロフィなどの黄斑部の疾患を考えます。 オカルト黄斑ジストロフィでは眼底も全視野ERGも正常で、多局所ERGで黄斑部のみ振幅低下を認めるのが特徴的な所見です。
中心の周りがリング状に小さい

中心窩の周りのリング状に波形が小さくなります。 ヒドロキシクロロキン網膜症の典型的なパターンです。 日本人を含むアジア人では、傍中心窩だけでなく黄斑辺縁部(pericentral)に障害が出ることが多いと言われています[1]。 その場合、多局所ERGではより外側のリングが小さくなります。 進行すると中心の波形、さらに全体の波形も小さくなります。
中心だけが残り、周辺が小さい

周辺の波形が小さく、中心の波形だけが残ります。 網膜色素変性に典型的で、黄斑部は後期まで保たれます。 網膜色素変性の診断は全視野ERGで行い、多局所ERGは中心の機能がどれだけ残っているかをみるのに使います。
1つの区域が小さい(多くはマリオット盲点の周り)

1つの区域の波形が小さく、多くは視神経乳頭の周りです。 マリオット盲点の拡大や、急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)でみられます。 AZOORの全視野ERGは障害の広さに応じて低下することがありますが[2]、どこが障害されているかは多局所ERGでわかります。
AZOORは時に球後視神経炎と診断される場合がありますが、鑑別に挙げて自発蛍光や多局所ERGを撮るのが大事です。
③OCT・視野と照らし合わせる
まず表示の向きを確認します。 視野配列(field view)は視野と、網膜配列(retinal view)は眼底写真やOCTと向きが一致します。
多局所ERGの所見は、構造の異常と一致したときに最も確かです。 AZOORでは、OCTでEZが不明瞭化している所に一致した視野障害、および多局所ERGでの振幅低下を認めます。 オカルト黄斑ジストロフィでは、中心の振幅低下がOCTの黄斑部のEZ不明瞭化と一致します。 3つが同じ場所を指していれば、そこに異常があると考えてよいと思います。
神経節細胞は多局所ERGにほとんど影響しないので、視野欠損があるのにその部位の多局所ERGが正常なら、網膜神経節細胞から後ろ(視神経・視路)の障害を考えます。 VEPが異常で中心の多局所ERGが正常なら、黄斑部の疾患の可能性は低くなります。
多局所ERGを検討するとき
- 視力が下がっているのに、眼底・蛍光眼底造影・全視野ERGが正常
- 視野欠損やマリオット盲点の拡大が、眼底所見で説明できない
- 視野障害のパターンが緑内障にしては非典型(乳頭所見に比べて中心の欠損が深すぎるなど)
- VEPが異常で、黄斑部の疾患を除外したい
- OCTや眼底自発蛍光で、ヒドロキシクロロキン網膜症かどうかはっきりしない
ヒドロキシクロロキン網膜症のスクリーニングの中心はOCTと眼底自発蛍光で、多局所ERGは所見がはっきりしないときの確認の検査と位置づけられています[3]。
まとめ
- 多局所ERGは、全視野ERGではわからない黄斑部の錐体機能を部位ごとにみる検査です
- 3Dプロットには偽の中心の山が出るので、全波形表示を先にみます
- 記録が良ければ波形が小さい場所に異常があるので、その場所をOCT・視野と照らし合わせます
参考文献
[1] 近藤峰生, 篠田啓, 松本惣一, 横川直人, 寺﨑浩子. ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き. 日眼会誌. 2016;120(6):419–428. https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=304&dispmid=909
[2] 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班 AZOORの診断ガイドライン作成ワーキンググループ. 急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)の診断ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(4):443–449. https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=314&dispmid=909
[3] Marmor MF, Ahn SJ, Ehlers JP, Melles RB, Mieler WF, Sarraf D, Yusuf IH; American Academy of Ophthalmology. Special AAO Report: Recommendations on Screening for Hydroxychloroquine Retinopathy (2025 Revision). Ophthalmology. 2026;133(4):439–450. PMID 41232611.
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この記事の英語版(poisensei.com):How to Read a Multifocal ERG (mfERG)
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