目次
ステロイドの抗炎症作用
ステロイドの糖質コルチコイド(GC)作用が主に抗炎症作用に作用するということはステロイド総論についての記事にまとめています。
genomig effectについて
この効果についてもう少し詳しく説明すると、ステロイドは細胞質内に存在するステロイド受容体と結合して、炎症性サイトカインを抑制することが出来ます。
この作用は遺伝子に働きかけるのでgenomic effectと呼ばれ、ステロイド投与から数時間で効果が出現します。
ただ、このステロイド受容体の数には限りがあり、プレドニゾロン1mg/kgでほぼ全てのステロイド受容体がステロイドと結合します。
つまり体重60kgの人にはプレドニゾロン60mg/dayを投与するとステロイド受容体が全て飽和するということです。
原田病などで高容量の内服時に60mgから始めるのはこのような理由です。
non-genomic effectについて
ステロイド受容体の数よりも高用量を使うステロイドパルスは意味が無いのでしょうか?
そういうわけではなく、ステロイドにはgenomic effectだけでなくnon-genomic effectと呼ばれる別の作用もあります。
ステロイド受容体が飽和するよりもさらに高容量のステロイドを投与するとnon-genomic effectが発生します。
この効果はステロイドの通常の抗炎症効果を強めるだけでなく、投与から数分で抗炎症効果が発現するという特徴があります。
ですので重症で治療を急がなければならないという状況でステロイドパルス療法が選択されます。
眼科では原田病や視神経炎などですね。
このnon-genomic effectはステロイドの種類によって効果の強さが違って、デキサメタゾンとメチルプレドニゾロンで強いとそれています。
これがメチルプレドニゾロンがステロイドパルス療法で使われる理由です。
逆にリンデロンパルスやプレドニンパルスという言葉をあまり聞かないのもこういった理由です。
ステロイドの種類について
ステロイドにはコハク酸のものと、非コハク酸のステロイドがあります。
- コハク酸:プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン
- 非コハク酸:デキサメタゾン、ベタメタゾン(リンデロン)
上記のように分けられますが、ごく稀にコハク酸アレルギーで通常のステロイドが使用できない患者さんがいます。
このような患者さんに対して、ステロイドパルスのような治療が必要になった場合には上記の内容により、non-genomic effectの弱いリンデロンよりもデキサメタゾンを使用すべきだと思いますので合わせて覚えておいていただくといつか役に立つかと思います。
ステロイドパルス前スクリーニングについて
B型肝炎について
ステロイドパルス療法に伴いHBV再活性化が起こり、劇症肝炎に至ると命に関わる合併症を生じます。
ステロイドパルス療法前にはスクリーニングとしてHBs抗原、HBs抗体、HBc抗体を測定する必要があります。
HBs抗原が陽性であった場合はもちろんのこと、HBs抗原が陰性であったとしてもHBs抗体もしくはHBc抗体が陽性であった場合にはHBVのDNA定量を行い検出感度以上であれば治療が必要ですし、感度以下であったとしても定期的なHBVのDNAのモニタリングが必要です。
詳しくは免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン(2020年版)を参照ください。
結核について
肝炎だけでなく見逃されがちなのが結核です。
日本は結核中程度蔓延国で10万人あたり14人程度の年間発症率なので意外と多いです。
結核が隠れている患者へステロイド投与をすると増悪だけでなくパンデミックリスクもありますのでステロイド投与前は必ず胸部レントゲン検査を行い、少しでも怪しければT-spotを行うのが望ましいです。
そしてレントゲンはできれば2方向。
また、近年眼科領域でも免疫抑制剤やヒュミラなどの生物学的製剤を使用しますが、導入時に結核などの検査をしても既にステロイドが投与されているために偽陰性となってしまうことが問題となっています。