ヒドロキシクロロキン網膜症とは

ヒドロキシクロロキン(プラケニル)は、全身性エリテマトーデス(SLE)と皮膚エリテマトーデスの標準的な治療薬です。 日本では2015年に承認され、2024年には後発品(ヒドロキシクロロキン硫酸塩錠)も出ています。

眼ではメラニンを含む組織に集まり、長期内服で蓄積することで網膜症を発症します。 障害は視細胞と網膜外層から始まり、網膜色素上皮はあとから障害されます。 中心視力は進行するまで保たれるので、ほとんどの患者さんは自覚症状がありません。 進行した網膜症は、薬を中止したあとも進行する可能性があります。 なので、早期発見が重要です。

用量とリスク因子

日本では、身長から求めた理想体重で用量を決めます。

  • 女性:(身長 cm − 100)× 0.85
  • 男性:(身長 cm − 100)× 0.9
理想体重1日の用量
31〜46 kg 未満200 mg
46〜62 kg 未満200 mg と 400 mg を1日おき
62 kg 以上400 mg

1日平均で理想体重あたり 6.5 mg/kg を超えると、網膜症のリスクが高くなります。 欧米では実体重あたり 5 mg/kg 以下が推奨されています。 実体重が理想体重を大きく下回る患者さんで長期に内服している場合は、用量を1段階下げることも考慮されます[1]。

網膜症は累積量が増えるとともに発生率が上がります。 実体重あたり 5 mg/kg 以下なら、5年以内は1%未満、10年でも2%未満です[2]。

添付文書でリスクが高いとされているのは次の患者さんです。

  • 累積投与量が 200 g を超えた患者
  • 肝機能障害・腎機能障害のある患者
  • 視力障害のある患者
  • 高齢者

眼科検査の時期

眼科検査は次の時期に行います。

  1. 投与開始時
  2. その後は少なくとも年1回
  3. リスクがあれば年1回より頻回(半年ごとなど)

投与開始時の検査では、禁忌となる網膜症・黄斑症(SLE網膜症は除く)がないかを確認し、投与前の眼の状態を記録しておきます。 あとで比べる画像があると、初期の変化をみつけやすくなります。

上のリスク因子に加えて、SLE網膜症のある患者さんと、投与後に眼科検査で異常が出た患者さんも頻回に検査します。

ちなみにアメリカでは、リスク因子がなければ投与から5年経過後からの定期的な眼科検査を推奨しています[2]。 日本では添付文書で、投与中は少なくとも年1回の検査をすることになっています。

検査の項目

添付文書では、次の7項目を必須としています。

検査目的
視力視機能の低下をみる
細隙灯顕微鏡角膜症など前眼部の変化をみる
眼圧ステロイド併用例があるため
眼底検査眼底カメラ撮影(アジア人では広角も検討)
SD-OCT傍中心窩〜黄斑辺縁部の網膜の局所的な菲薄化・ellipsoid zoneの欠損をみる
視野中心10度の輪状暗点をみる(アジア人では30度まで)
色覚網膜症に伴う色覚異常をみる(石原色覚検査表・パネルD-15・SPP2 など)

ヒドロキシクロロキンでは、網膜症のほかに渦状の角膜症が出ることがあります。 角膜症は内服を中止すれば消えます。 眼圧については、国内の臨床試験や海外の市販後の報告で眼圧の副作用は出ていませんが、ステロイド内服を併用している患者さんもいるので測定します。

必要に応じて、多局所ERGと眼底自発蛍光も検討します。

初期の網膜症をみつけやすいのは、OCT・眼底自発蛍光・視野です。 初期の網膜症では、眼底に異常がみられないことが多いです。

傍中心窩型と黄斑辺縁部型

障害は主に2つの場所から始まります。

傍中心窩型

左眼の眼底自発蛍光で、中心窩のまわりに暗い輪がある。その下にOCT、さらに下にハンフリー10-2の視野で中心のまわりの輪状の暗点。
Atypical Presentations of Hydroxychloroquine Retinopathy: A Case Series Studyより引用(CC BY 4.0・一部改変)

中心窩のすぐ外側が輪のように障害されます。 欧米人に多い型で、視野は中心10度(10-2)でみつけられます。

上から眼底自発蛍光、OCT、10-2の視野です。 OCTの矢頭は網膜外層の消失を示しています。 これは進行例なので、眼底自発蛍光で輪がすでに暗くなっています。 初期には同じ場所が、OCTで薄く、眼底自発蛍光で明るくなります。

黄斑辺縁部型

眼底自発蛍光で、黄斑の外側の血管アーケードの近くに暗い輪がある。その下にOCT、さらに下にハンフリー30-2の視野で中心の外側の暗点。
Atypical Presentations of Hydroxychloroquine Retinopathy: A Case Series Studyより引用(CC BY 4.0・一部改変)

障害が黄斑の外側、血管アーケードの近くから始まります。 アジア人に多い型です。 通常の黄斑のOCTの撮影範囲では届かないことがあるので、広い範囲のOCT、広角の眼底自発蛍光、中心30度(30-2)の視野で確認します。

日本人の患者さんでは、黄斑辺縁部も意識して検査する癖をつけると良いと思います。

人種だけで型を決めつけないようにしましょう。 もう一方の型や、両方が混ざった型の患者さんもいるので、どの患者さんでも両方の場所を確認します。

OCTの所見

最も早い所見は網膜外層の菲薄化です。 1枚の断面より、網膜厚マップのほうがみつけやすいです。 OCTの網膜厚の数値を、前年のものと比べます。

その後、外層の線が次の順に消えていきます。

  1. 傍中心窩の interdigitation zone が不明瞭になる
  2. ellipsoid zone が薄く途切れ、消失する
  3. 外境界膜(ELM)が消失すると重症

中心窩は保たれるので、障害された輪の中で中心窩だけが残って見えます。 これを flying saucer sign と呼びます。

眼底自発蛍光の所見

眼底自発蛍光(上)とOCT(下)をstage 0から4まで並べた図。stage 0は正常、stage 1と2は黄斑のまわりに明るい部分、stage 3と4は暗い部分がある。
Classification of Hydroxychloroquine Retinopathy: A Literature Review and Proposal for Revisionより引用(CC BY 4.0)

上が眼底自発蛍光、下がOCTで、矢頭は網膜外層の消失を示しています。

最初は過蛍光で、黄斑の下耳側に出ることが多いです(stage 1)。 広がると一部または全周の輪になります(stage 2)。 同じ場所のOCTで、菲薄化とellipsoid zoneの消失を認めます。

進行すると低蛍光が出てきます(stage 3)。 視細胞が消失し、網膜色素上皮が障害されたことを示しています。 stage 4では低蛍光が中心窩に及びます。

画像を見る時は、ベースラインや前年の画像と比べることが大切です。 そして低蛍光になる前にみつけるのが大切なので、漠然と眺めるのではなく、どのような変化をみつけるべきかを意識しながら観察するようにしましょう。

視野と多局所ERG

OCTや眼底自発蛍光ではっきりしないときは、視野と多局所ERGで機能を確認します。

視野は、傍中心窩には10-2、黄斑辺縁部には24-2か30-2を使います。 初期の欠損は上鼻側に出ることが多いです。 視野は網膜と上下左右が逆なので、OCTや眼底自発蛍光の下耳側の障害に一致します。 判定に迷う視野は、数か月以内に再検査します。

中心の周りのリング状に波形が小さく平らで、外側の波形は大きい多局所ERGの全波形表示。
Atypical Presentations of Hydroxychloroquine Retinopathy: A Case Series Studyより引用(CC BY 4.0・一部改変)

多局所ERGは他覚的な検査です。 傍中心窩型では、中心窩のすぐ周りのリングで波形が小さくなります。 黄斑辺縁部型では、もっと外側のリングで小さくなります。

多局所ERGについては多局所ERGの読み方の記事も参照ください。

標的黄斑(bull’s eye)は進行した所見

ヒドロキシクロロキン網膜症といえば標的黄斑(bull’s eye maculopathy)が特徴的所見と言われます。 これは中心窩を残して網膜色素上皮が輪状に萎縮したもので、眼底でみえるときには網膜色素上皮まで障害されています。 しかし、標的黄斑をみつけようと思っていると手遅れになります。 なぜなら、標的黄斑になってからでは、内服を中止しても何年も進行する可能性があるからです。 なので、こうなる前に定期検査でみつける必要があります。

標的黄斑となる疾患としては、錐体ジストロフィやスタルガルト病もあるので、内服歴も確認しましょう。 末期には広い網脈絡膜萎縮となり、網膜色素変性症に似ることもあります。

網膜症をみつけたら

添付文書では、視力低下や色覚異常などの視覚障害が認められた場合は、直ちに投与を中止するとしています。 視野異常などの機能の異常がなく、OCTなどで異常があるだけの場合は、検査の間隔を短くし、投与を続けるかを慎重に判断します。

投与を続けるかは、処方医と患者さんと相談して判断することが多いです。 検査で異常が出た際は、必ず処方医と迅速に情報共有するようにしましょう。

ellipsoid zoneの消失が小さく、ELMが保たれているうちに中止できれば、その後は1年ほど少し進んでから止まることが多いです。 網膜色素上皮まで障害されていると、中止後も何年も進行する可能性があります。

まとめ

  • ヒドロキシクロロキン網膜症は自覚症状がないまま進むので、開始時と少なくとも年1回の検査を行う
  • アジア人は黄斑辺縁部型が多いので、傍中心窩と黄斑辺縁部の両方を確認する
  • 最初の所見はOCTの網膜外層の菲薄化と、眼底自発蛍光の過蛍光

参考文献

[1] 近藤峰生, 篠田啓, 松本惣一, 横川直人, 寺﨑浩子. ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き. 日本眼科学会雑誌. 2016;120(6):419-428. https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=304&dispmid=909

[2] Marmor MF, Ahn SJ, Ehlers JP, et al. Special AAO Report: Recommendations on screening for hydroxychloroquine retinopathy (2025 revision). Ophthalmology. 2026;133(4):439-450. PMID 41232611.

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この記事の英語版(poisensei.com):Hydroxychloroquine Retinopathy Screening: What to Look For on OCT and FAF

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